マグロ回遊記

マグロは泳ぎが止まると死んでしまうんやで

嘘だと言ってよバーニィ!な話

働いているホテルは小豆島の土庄港から車で約20分かかる山の上にある。
小豆島は"日本の夕陽100選"に選ばれており夕方に海に沈む太陽の眺めは素晴らしい!
30年の歴史があり、館内はよく見るとボロいところがちらほら。
私の寮も山の中にある昭和の四畳半といった感じだ。
他のスタッフからはあまり評判が良くないが個人的にはまあまあ気に入っている。
寮完備、三食付き、風呂は館内の大浴場(露天風呂あり)を利用する。

入社初日のオリエンの時、私の他に2人入ってくる人がいるとのことで待っていると、白のトップスにジーンズという漫画みたいなペアルックの男女が歩いてきた。
たしかにここはカップルOKのホテルではあるが。
心の中ででかい舌打ちをかましたが、当たり障りない挨拶でその場を取り繕った
私の職場は売店で彼らはレストランだったので、直接仕事する機会はないのが救いだった。
社員からの一通りの説明が終わり解散となった。

寮までの帰り道にいろいろ質問してみた。
「2人はもともと知り合い?(カップルだって分かってるけどあえて)」
「はい、そうです。先月末から旅行で日本を周っていてお金を貯めるために小豆島に来ました」
2人とも26歳で何年か会社勤めをした後に車での旅行を思い立ったらしい。
有名な観光地を巡り基本的に車中泊
なんというロマンティックな生き方。

話していると2人ともとても感じの良い子だった。
2人とも北海道出身なだけあって部屋にいる虫をゴキブリじゃないかとビビっており(実際は毛虫だった)何か助けたくなるような人柄だった。
私は彼らにシド&ナンシーというあだ名をつけた。見た目とのギャップは甚だしいのだが何となくそう呼びたくなった。

次の日の夜、たまたま食堂でシド&ナンシーに会った。「調子はどう?」とナンシーに聞くと「ホールの人たち怖いです」と怯えた表情だった。
私もレストランのホールのアルバイト経験があるので確かに怖い人いたなーとその当時のことを思い出した。
「頑張れー!」と軽く声をかけて別れた。

そのまた次の日、夜ご飯を食べに食堂に行くとホールのアルバイトの子たちが疲れた顔で机にうなだれていた。
「どうしたんですか?」と聞くと「新しく来たアルバイトが突然辞めた」とのこと。
「時間になっても来ないから寮まで見に行ったらテーブルの上に鍵が置いてもぬけの殻だったらしい」
カップルで来てた子達で…」と聞いた瞬間嫌な予感がした。
「も、もしかして、一昨日入ってきたカップルですか?」




エスケープしたアルバイトはシド&ナンシーだった。




辞め方がパンクすぎるって。マジで。

すっかり騙されていた自分と、ナンシーの悩みに気づけなかった自分の不甲斐なさにガッカリした。
ガッカリしすぎて横になった途端に瞼が重くなってきた。だんだんと…Zzz